- 知る
まだ、何者でもない
「まだ2合目」
目指す自衛官の姿に向け模索の毎日
卒業後4年目
海上自衛隊幹部
檜山理愛
2022年政治経済学部政治学科卒業
檜山(旧姓・清水)理愛さんは、安全保障に興味を抱いて海上自衛隊に入隊した幹部自衛官だ。なぜ国防の前線に立つのか、何を成し遂げたいのか、海上自衛隊で4年目を迎える檜山さんに聞いた。
15時間勤務の日も航空機整備を監督
青空の下、海上自衛隊岩国航空基地(山口県岩国市)の滑走路から航空機が離陸するたびに、ごう音が響く。防音用のイヤーマフを着用し、次々に飛びたっていく航空機を見送る檜山理愛さんは、航空機の整備を監督する幹部自衛官だ。
所属するのは「第31整備補給隊」。同基地にある航空機のエンジンや機体、電子機器、武器などを整備するとともに、航空機の部品や燃料の補給を実施。パイロットが安心して任務に専念するために欠かせない点検整備作業の一翼を担う。
通常時の勤務は午前7時から午後5時前まで。だが、航空機のフライト前の点検から発進の見送り、そしてフライトを終えた航空機の点検整備までを担当する「列線当直士官」としてのシフトが、2週間に1度ほどの頻度で入る。その勤務は午前5時から午後8時までの15時間。出勤時間は、当日のフライトスケジュールに合わせて午前4時半頃に早まることもある。フライトを終えた後の点検で機体に不具合が見つかれば、すぐさまその対応に入るため、退勤が午後11時以降にずれ込むこともあるという。
「航空機が次々と発進していく間、私たち整備に関わる人間は発進を見送るのですが、長いと5時間ほど飛行場で立ちっぱなしの状態だったりします。時には眠気と疲れで立っているのがつらいこともあります」
檜山さんが整備監督を担当するのは主に3種類の航空機で、日本周辺海域の警戒監視と情報収集に当たる「EP‒3」「OP‒3C」と、艦艇部隊が行う電子戦訓練と対空射撃訓練を支援する「UP‒3D」。これに加えて2026年1月からは1000回以上出動歴があり、1000人以上を救助した救難飛行艇「US‒2」の整備監督の担当も始まった。
右/朝のブリーフィングの風景。気温や天気の報告を受けるとともに、その日の作業手順や作業員の健康状態を確認する。
左/手を振りながら、航空機の発進を見守る檜山さん。右手のサインは「異常なし」、左手は「行ってらっしゃい」を意味するという。
部下は整備のプロ
敬意を持って聞く
2022年3月に早稲田大学政治経済学部を卒業し、同年4月、海上自衛隊に入隊した檜山さん。航空機の「基礎の基礎」から学び始め、2023年10月に岩国航空基地に配属されてからは、航空機の整備とは何たるかを実地で体感する日々だ。
檜山さんが繰り返し口にするのは、部下たちは整備の知識と経験が豊富な「プロフェッショナル」であるということ。自身の階級は部下よりも高い「2等海尉」で、20代ながら約30人の部下を率いる立場にあるものの、整備の経験は部下よりも浅いことを自認しており、「いまだに分からないことが多い」と率直に語る。
「だからこそ、整備作業で不明点があれば、部下であっても『すみません、教えてください』と敬意を持って聞くようにしています」
そのおかげもあってか、年上の部下からも、的確な助言と協力を得られている実感があるという。
幹部自衛官としての檜山さんは今後、階級が上がっていくことが見込まれ、近いうちに転勤もあり得る。「だからこそ今、岩国航空基地にいる間に、現場の整備員たちが何に困っているのかをしっかりと聞いて心にとどめ、自分の階級が上がった時に、海上自衛隊全体を見渡してその課題を解決できるようになりたいんです」と話す。
整備の監督以外にも、幹部自衛官の一人として、人事業務や会議などのデスクワークも多いが、上司の那須崇史1等海尉は、その檜山さんの仕事ぶりについて「上司へのサポートが的確で、いつ何をすればいいかを常に考え、先んじて報告してくれます」と評価する。

海上自衛隊岩国航空基地(山口県岩国市)の格納庫内で実施された航空機の整備作業を見守る檜山さん。航空機のフライト前後の点検や発進の見送りを担当する「列線当直士官」に加えて、定期的な整備の監督を担う「整備当直士官」のシフトの日には午前7時に出勤。終日、安全管理などの業務を行い、午後5時前に退勤する。
安全保障に興味を抱き国際政治を学ぶ
檜山さんが自衛官になったきっかけは大学2年生の時、防衛省の「大学生等サマーツアー」に参加したことにある。「もともと、自衛隊に強い関心があったわけではなかった」が、海上自衛官だった父親から「自衛隊の生活を体験する機会がある」と教わり応募した。
ツアーで、航空基地に必要器材などを運ぶ輸送ヘリ「CH-47」に搭乗したり、隊員の生の声を聞いたりしたことで、安全保障に興味を抱くようになった。政治経済学部で国際政治や国際関係論を学んでいたが、卒業論文では防衛省が刊行する『防衛白書』を対象に、日本の防衛戦略の変遷を分析。頻出する単語を、名詞のみに絞って年代別に集計したところ、1970年代から1980年代にかけては「防衛」「自衛隊」といった単語が上位を占めたが、1990年代から2000年代にかけて「米国」「ロシア」などの具体的な国名が上位に出てくるようになり、2016年と2021年の『防衛白書』で最も多く出てきた単語は「中国」、次いで「米国」だったことをグラフ化した。漠然と感じていたことを「見える化」できたという実感があったという。
海上自衛隊を就職先に選んだのは、「安全保障に関わる仕事をしたい」という思いを抱いたのと同時に、陸・海・空の自衛隊のうち、海上自衛隊が最も海外との交流が多い印象を受けたからだ。実際、入隊から1年後には遠洋練習航海で北米・中米・南米の8カ国を巡り、各国の海軍との共同訓練を経験。同世代の士官と交流し、国際協調の意義を学んだ。
「中米や南米の士官とは、お互い英語が母語ではない分、率直な話ができました。親しくなって連絡先を交換した士官もおり、今でも近況を報告し合っています。各地で、日系移民の皆さんから歓迎されたことも、忘れられない思い出です」
勤務する岩国航空基地は終戦後、米海兵隊が進駐し、基地を接収したという歴史的な経緯から在日米軍基地と隣接している。そのため、檜山さんも米軍関係者と英語で協議することがしばしばあるという。
「まずやってみる」
15キロの遠泳挑戦
高校の時も文化部で「運動とは無縁だった」という檜山さん。大学卒業後に1年間学んだ海上自衛隊幹部候補生学校(広島県江田島市)では伝統行事の「遠泳」があり、一般幹部候補生は、潮流の影響もある海を8マイル(約15キロメートル)泳ぎ切らないといけない。
「持久力がなく体力的につらかったのは事実ですが、同期もフォローしてくれましたし、『女性だからできない』ということは基本的にはありません。不安よりも『まずやってみよう』という考えの方が大きかった記憶があります。新しい場所に飛び込むことに抵抗がない、私の性格も影響しているかもしれませんね」
2024年8月には、幹部候補生学校で共に学び、現在は岩国航空基地のパイロットとして業務に従事する男性と結婚。夫の搭乗する航空機の発進を見守ることもある。過去には、結婚や転勤に伴う女性自衛官の退職もあったというが、檜山さんは「今は、パートナーを同じ基地や地理的に近い場所に配属するなど、上司が赴任先について配慮してくれていると感じます」と言う。
世界各地で、平和を脅かす事態が次々と起こる昨今。日本を取り巻く安全保障環境も厳しさと複雑さを増している。そんな中、海上自衛官という道を選んだ檜山さんは、この先どんな自衛官になりたいのか。
「目指すべき自衛官の姿を山に例えるなら、まだ私は2合目までしか来ていません。今はまず、日本の国防に従事していけるように知識を身に付けて経験を積み、最終的には航空機の調達から配備、整備までの全体的な運用の意思決定に関わり、日本の国益になる選択ができる自衛官になれるよう、模索する毎日です」
檜山さんのような幹部自衛官は、整備作業では青い迷彩柄の作業着を、室内でのオフィスワークの際にはカーキ色の制服を着用する。業務中には真剣な表情を崩さなかった檜山さんだが、部下と歓談しながら食堂で昼食を取る時には、笑みがこぼれた。昼食のメニューは日替わりで、この日は麦入りのご飯と和風ステーキ、きのこ汁など。
取材・文=川口敦子 撮影=布川航太
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